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ソチ・冬季オリンピック、パラリンピックは開幕した。
日本選手の活躍が大いに期待され、それがクローズアップされることは仕方のないことだが、勝ち負けに一喜一憂することなく、「スポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」というオリンピック精神に立ち戻れば、無事開幕し、そして閉幕することこそ最大の喜びだと考える。
カフカスに横たわる民族・宗教問題の影響でテロが心配されたが、杞憂に終わった。リレーの途中で聖火が消えてしまったが、ライターで再点火されたことはご愛嬌。開会式セレモニーで、雪の結晶のオブジェが徐々に輪に変わり、五輪マークが形作られる演出中に、一つだけ輪が開かず「四輪」になるトラブルもあった。
そもそもソチという場所はどんなところ? 黒海海岸に細長くできたロシアの代表的な保養地である。冬でも6度と温暖で、年間訪問客は約400万人、うち外国人は約5%といわれている。黒海沿岸には人口海岸とホテル群が連なり、多くのサナトリウムが山間部に建ち並んでいる。イタリア風の階段式庭園などが見られたり、どこか南仏的雰囲気も味わうことができるという。かの独裁者スターリンもこの地を愛した。彼の命で作られた施設は、どこか威圧的な印象のいわゆるスターリン様式が目立つ。サナトリウム以外にも、ゲストハウス、休息の家(Dom Otdykha)が林立している。長期療養者にとって温泉施設もあるサナトリウムは、黒海の温暖な気候と充実した医師団を備えた絶好の施設といえるし、更にロシアの要人が訪問し、国際的な会議も頻繁に開催される国際温泉保養地ともいえる。
ソチは観光都市の輝きだけではなく、ロシアの文学や映像芸術の世界に多彩な光を放つ地だ。文学にも縁がある。「ドクトル・ジバゴ」で知られるポリス・パステルナーク(彼はノーベル文学賞受賞に決定していたが、ソ連当局の反応を慮り、受賞辞退に渋々同意した)の詩にも保養地ソチが現れる。ソ連時代の作家たちは、ソチで美しい自然と温暖な気候を満喫しながら休息しつつ、自身の作品でソチやその周辺にふれてきた、ノーベル文学賞受賞者ヨシフ・ブロツキーもそうだ(何度となく国内流刑、強制労働ののちソ連からアメリカに国外追放された)。「アリベルト・フロロフ」という詩でソチをこう描いた。
「1月2日、静まり返った夜、/ 私の船はソチで纜(ともづな)を解いた。/ のどが渇いていた。私はあてもなく歩き始めた / 港から中心へと続く / 横町を、そして、夜も更けて /『カスカード(滝)』というレストランを見つけた」。このレストランは今もあるらしい。
カフカス地方や中央アジア各国を含め、何度となくソ連 / ロシアを訪問したことはあるのだが、まだソチを訪れたことはない。一度は当地を訪れ、リゾート気分に浸りたいと思っている。2018年FIFAワールドカップはロシアで開催されるが、ソチもその開催都市としてノミネートされている。訪れるのはこの時か。
折角の世界的なお祭りに水を差すわけではないが、陽のあたるソチの影の部分として、先住民・チェルケス人が、かつてロシアによって長年に渡り、迫害、虐殺された血塗られた歴史があったことを決して忘れてはならない。 |
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