平成23年7月26日  海辺に散った恋の火花 与謝野晶子と鉄幹

白い麻のパラソルをさして浜寺公園を歩く。
今から110年ほど前、与謝野晶子もこんなふうにして、盛夏の松林を散策したのだろうか。
延々と続く緑の松林が地面に濃い影を作る。すぐそこは海なのに晶子が聞いたという遠鳴りは聞こえない。公園の向こうに見える阪神高速湾岸線を走る車の音が時折聞こえるだけだ。
 


   海こひし 潮の遠鳴り かぞへつつ
   少女(おとめ)となりし 父母(ちちはは)の家


  堺が生んだ女流歌人・与謝野晶子は明治33年(1900年)8月6日、実家の堺から南海鉄道(当時)で浜寺駅(現 浜寺公園駅)に着き、公園内にあった料亭旅館・壽命館での歌会に参加、後に夫となる与謝野鉄幹や鉄幹に思いを寄せる山川登美子らと公園を散策したという。

燃え上がる恋心。後に情熱の歌人と呼ばれる晶子の作風は浜寺公園の恋から始まったのかもしれない。

当時の浜寺公園は、大阪湾の白砂の海辺に面し、松林が続く風光明媚な名勝の地。
壽命館のほか、一力楼、鶴の家など木造のりっぱな料亭旅館が立ち並び、関西各地から多くの人々が訪れたという。

ここで、晶子、鉄幹、山川登美子らは歌を詠み合い、浜寺を散策する。
鉄幹をめぐって、晶子と登美子の間に恋の火花が散り始めたのは、まさにこのときであった。

晶子の生家は堺市の駿河屋という老舗の和菓子屋。現在の阪堺電車の「宿院駅」近くにあった。
晶子の父は蔵書家だった。老舗のお嬢さんで母親からあまり外に出してもらえなかった晶子は店の手伝いをしながら、ひたすら「源氏物語」など日本の古典やトルストイを読みふけった。
文学の世界で知った恋は、処女の胸に何を投げかけたのだろうか。
 


   やわ肌の あつき血汐に ふれも見で さぶしからずや 道を説く君


  処女歌集「みだれ髪」には、恋しい鉄幹へのあふれるような想いを情熱的に詠んだ歌が散りばめられ、いつの時代も恋する女性たちをひきつけてやまない。  


   狂ひの子  われに焔(ほのほ)の  翅(はね)かろき
   百三十里の あわただしの旅


  明治34年6月、晶子はついに堺の実家を出て、単身、鉄幹のいる東京に向う。
晶子はその後、夫鉄幹との間に12人の子供をなした。短歌のほか、詩、評論、童話など活動は多岐にわたった。昭和17年5月29日、63歳でその生涯を閉じた。 

以上が先日、産経新聞に掲載された文芸欄の記事の要旨である。
現在、晶子の故郷・堺ではゆかりの場所に歌碑が建てられ、当時を偲ばせている。
晶子の生家は現在の大道筋・阪堺線の軌道上、宿院駅の近くにあったが、戦災により消失した後、復興計画によって区画整理され、今は大道筋の歩道脇に歌碑を残すのみとなっている。その歌碑には
 


   海こひし 潮の遠鳴り かぞへつつ をとめとなりし ちちははの家



浜寺公園

 ふるさとの 和泉の山を きはやかに 浮けし海より 朝風ぞ吹く



母校の府立泉陽高校(当時の堺女学校)

 ああをようおとよ 君を泣く 君死にたまふことなかれ 



堺女子短期大学

 山の動く日きたる、 かく云へど、 人これを信ぜじ



大仙公園内

 花の名は 一年草も ある故に 忘れず星は 忘れやすかり



三菱UFJ銀行堺支店前

 菜種の香 古きさかいを ひたすらむ 踏ままほしけれ 殿馬場の道



堺市民会館

 母として 女人の身をば 裂ける血に 清まらぬ世は あらじとぞ思ふ



少林寺小学校

 をとうとは をかしおどけし 紅き頬に 涙流して 笛ならうさま



堺駅西口駅前広場

 ふるさとの 潮の遠音の わが胸に ひびくをおぼほゆ 初夏の雲



中央図書館

 堺の津 南蛮船の 行き交へば 春秋いかに いりまじりけむ



覚応寺

 その子はたち くしにながるる くろかみの おごりの春の うつくしきかな



西本願寺堺別院

 劫初より 作りいとなむ 殿堂に われも黄金の 釘ひとつ打つ



賢明学院中学高等学校

 少女子(おみなご)の 祈りの心 集まれば ましてやマリアの 御像光る



羽衣学園短期大学

 朝ぼらけ 羽ごろも白の 天の子が 乱舞するなり 八重桜ちる



堺市立女性センター前

 地はひとつ 大白蓮の 花と見ぬ 雪のなかより 日ののぼるとき



  彼女の詠んだ歌碑は出身地・堺ばかりでなく、彼女の旅先など、ゆかりの地で、全国に数十基、宝石のよう散らばって興味深い。  



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