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時あたかも桜の咲き乱れる古都・京の都・南座で稀代の名優・坂東玉三郎の舞踊公演が催され、「何が何でも!」と、家内と一緒に鑑賞してまいりました。
南座の玉三郎舞踊公演には過去にも何度か鑑賞し、その都度素人の私も深い感銘を受け、その幻想的であり、妖艶な舞姿は今でも生々しく私の心の奥底に刻み込まれています。
例えば「鴛娘」。一面に雪がしんしんと降り続く雪景色のなか、池のほとりの柳の木のそばで、蛇の目傘さした白無垢姿の鴛娘がたたずんでいる。恋に悩む女の苦しい胸のうちや恋の切なさを踊ります。
やがては恋に迷った娘は自鴛となり、恋の苦しさに羽を羽ばたかせ踊り狂い、そして最後には力尽きるように雪の降りしきる中、息絶えます。
舞台は一面雪景色、雪積もり雪舞うなか、三味線と長唄の響きの中、白無垢姿で舞う玉三郎の舞にただただうっとり酔いしれていたのを覚えています。
もうひとつ「隅田川」。或る母親が一粒種である梅若丸を人買いにさらわれ、京の都から尋ねたずねて武蔵国の隅田川までたどり着きました。隅田川の船着場で、渡し舟の船頭に尋ねたところ、そのような特徴のある子供はつい先日亡くなったと聞きます。
悲嘆のなか子供の亡骸を葬った塚までたどりつき、その塚を撫でるように、そして塚を回りながら、わが子を亡くした母親の情をひたすら舞う玉三郎の姿は地唄と三味線の響きのなかであまりにも幻想的な悲しい舞でありました。
さて、今回の出し物は「将門(忍夜恋曲者・しのびよるこいはくせもの)」と「日本振袖始」でした。
「平将門」。将門は関東の豪族平将門は関八州を従え、自ら天皇を名乗ります。そこで朝廷は藤原忠文を征東大将軍に任じ東国へ向わせる。忠文到着前に将門は天魔の乱で敗北討死にしてしまう。生き残った娘「五月姫」は怨念を募らせ、貴船神社の社に参るようになる。満願の二十一夜目に貴船神社の荒御霊の声が聞こえ、彼女に蝦蟇(がま)の妖術を授けました。
一方、故将門の古御所に蝦蟇の妖術を使う妖怪が出没すると聞き、大宅太郎光圀が征伐にやってきます。
そこへ島原の傾城如月と名乗る妖艶な美女が現れます。砥女は光圀を見染めてやってきたと、ロ説きにかかります。光圀はわざと打ち解けた態度で応対し、将門の最期の有様を物語ります。これをきいた如月は無念の様子を見せながら涙を流します。
そして彼女は相馬錦の将門の旗を落としてしまい、将門の遺児・五月姫・滝夜又姫だと気づかれてしまうと、大蝦蟇を従えて妖術で抵抗します。
豪奢な遊女姿の玉三郎の舞が耽美な世界へ誘います。
玉三郎の舞姿はどの瞬間をとってもその瞬間に意味があるようで、絵になっています。瞬間瞬間の舞姿が連続して舞踊になっているという錯覚に陥りました。
また、共演の光圀役の中村獅童の凛々しく見事な演技でした。
もうひとつ「日本振袖始(にほんふりそではじめ)」。
近松門左衛門の神代物の作品です。
ににぎの尊は木花咲耶姫を妃に迎え、帝の位についた。そのことを怨んだ姉の岩長姫は宝剣を奪い取って身を隠す。岩長姫は実は八岐大蛇(やまたのおろち)。
長者の娘 稲田姫は見目麗しいため八岐大蛇(やまたのおろち)のいけにえに選ばれ出雲の国に連れてこられます。
素戔嗚尊(すさのうのみこと)の計により酒を好む八岐大蛇に八つの壷に毒酒を盛ります。岩長姫が現れ酒の香りに堪えかね毒酒を次々と飲み干す。
岩長姫は大蛇の本性を現し、素戔嗚尊がこれを退治するという他愛のない神話の物語りです。
ここではだんだん酒に酔いながら踊る玉三郎の妖艶な舞、さらに大蛇になって鬼気迫る踊りを堪能させていただきました。
さらに、稲田姫扮する尾上右近の女形の舞にもただただうっとりとし、玉三郎の後継者は、この人・尾上右近ではないかと思った次第です。
帰りに平安神宮に立ち寄り、庭園一杯に咲き誇った満開のしだれ桜を堪能、京の春を満喫しました。
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