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人生に目的はない、と割り切っても、一方で目的のない人生はいやだ、となぜか思ってしまう。
当面の目標に向かって一歩、一歩進んでいくのが生きがいだという人も少なくない。
思うに、すべての人はその人なりの目標や夢を持っている。名声・権力・金・健康、やり甲斐のある仕事・・・・自己実現こそが人生の最高の目的である。という言い方がある。
しかし人間は自分の身長すら思う通りにならない。
人間は受胎の段階から百人百様の異なった条件を与えられてスタートするのだ。
ブッダの人生は苦であるという考え方には逆らいがたい迫力がある。苦と訳したのは中国人だ。もともとのサンスクリットの言葉では《思うに任せぬこと》《思う通りにならないこと》といった意味もふくまれているらしい。人が生きるということは思うにまかせぬこと、である。
人はこの世に誕生する瞬間からそういう不自由なものを背負って生まれてきている。
(五木寛之) |
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