令和2年7月9日 新型コロナウイルス:人類と感染症との果てなき戦い

一日会 佐治成男様 講演

人類の歴史は感染症との闘いとも言われる。メソポタミア時代、既に疫病(感染症)は四災厄の一つに数えられ、古代エジプトを含む多くのミイラのゲノム解析などから、天然痘などとの闘いの跡を見ることができる。

これらの感染症は戦争を超える犠牲者をもたらしたとも言われる。第一次大戦の死者1600万人、第二次大戦の死者5000万~8000万に比べ、1918年~19年に大流行したスペイン風邪では5000万人が死亡。ペスト(黒死病)は何回も世界的大流行(パンデミック)を記録し、とくに14世紀にヨーロッパを襲ったときには推計死者数は1億人を超えた。

記憶に残る主なものは…

◎紀元前 427~429年・・・アテネの腸チフス
記録に残る最古の疫病で人口過密と戦争による食料・水不足で蔓延し、アテネの人口の半分近くが死亡。
◎西暦1347年・・・黒死病(ペスト)
鼠からノミを媒介にしてヨーロッパに蔓延。当時の欧州の人口の3分の1に当たる7500万~1億人が死亡。海上貿易の盛んな時代だったので港町から内陸へと急速に感染が広がった。
◎西暦1509年~1529年・・・天然痘・はしか
ヨーロッパの侵略者が天然痘と麻疹(はしか)をアメリカ大陸に持ち込み、これらの免疫を持たなかった先住民2000万人が死亡。インカ帝国・アステカ帝国の滅亡にも繋がった。
◎西暦1852年~1860年・・・コレラ
1852年にインドのガンジス川河口域から始まった第3回世界的流行では、交易路を辿ってロシア・中国・日本・欧州・米国に広がり、ロンドンでも1万人以上が死亡。
◎西暦1918年~1919年・・・インフルエンザ(スペイン風邪)
中国が発生源とされる。中国駐在の米国人がヨーロッパに従軍して発病、第一次世界大戦の混乱の中で爆発的に広がり、世界人口の3分の1に当たる5億人が感染、このうち3000万人から5000万人が死亡したとされる。
◎西暦1960年~・・・エイズ
ヒト免疫不全ウイルスによって引き起こされ、世界中でこれまでに3200万人が死亡、現在も3800万人が感染している。
◎西暦2003年・・・SARS(重症急性呼吸器症候群)
コロナウイルスが原因で、中國南部の広東省から発生し、ベトナムや香港、カナダ、米国などに広がった。全世界で8098人が感染、774人が死亡したが、各国で検疫体制を強化し、7月に終息宣言が出された。
◎西暦2014年~・・・ジカ熱
蚊を媒介とするジカウイルス感染症で、2015年~16年にかけて中南米で流行。症状は軽く、感染したことに気づかない場合も多いが、妊婦が感染すると胎児に小頭症などの先天性障害を引き起こす可能性がある。
◎西暦2015年~・・・エボラ出血熱
最初の流行は1976年。蝙蝠が宿主とされるエボラウイルスによって引き起こされ、血液や体液との接触で人から人に感染し致死率が高い。流行地域は主にアフリカ大陸にとどまっている。

【今後も出現する新しい感染症】

世界で7回もパンデミックを起こしているコレラ。強い感染力と致死力をもつ天然痘このほか蚊が媒介するデング熱、黄熱、マラリア等、人類と感染症の戦いの歴史は永いが、これらに対する医療技術や医学の進歩はつい最近のことである。

初めてのワクチン開発が1798年、細菌の発見が1876年、抗生物質の発見が1928年で僅か100年か200年前の出来事でしかない。それでも、公衆衛生の改善もあって、人類は感染症に対してかなり有利な立場を迎え、ポリオやはしかを絶滅寸前まで追いつめてきたが、その間に実は40種以上の新たな感染症がこの世に出現してしまった。

その中心になるのは、動物から人にうつる『人獣共通感染症』である

20世紀以降、人間は辺境の地にどんどんと踏み込んで開発を続け、その結果として家畜と野生動物との接触機会がふえてきて、当然人が未知のウイルスに晒される確率が高くなる。また、野生動物の取引は違法だが、人工養殖の名目で取引は半ば公然と行われておりこれら違法取引は世界の犯罪組織を潤す4大違法ビジネスの1つで、その市場規模は年間260億㌦にもなる。最大の市場は中国で、とくに漢方薬の原料になる種類は高値で取引される。

ウイルスの宿主が希少な動物であれ、身近な家畜であれ、狭い場所にさまざまな動物が詰め込まれていれば、病原体が種から種へと飛び移り、突然変異を起こす確率は高くなる

【今回の新型コロナウイルスの発生源は?】

2003年のSARSウイルスの発生源は中国南部の広州市にあった「清平市場」内の野生動物売場だったという。今回は武漢市の「華南海鮮卸売市場」内の野生動物売場でコロナウイルスは野生の蝙蝠由来、中間宿主は漢方薬の材料として密猟され、絶滅が危惧される哺乳類の「センザンコウ」の押収された検体から遺伝子配列が近いウイルスが検出されたが、これが媒介したと言う確証はない。

むしろ、今回のウイルスが特殊なタイプであることや、市場の近く(約12km)に1954年に設立された武漢病毒研究所(生物兵器や感染症対策の研究)があることから、ここが発生源の説が強い。また、市場から僅か280mの距離には武漢疾病管理センターもある。

ただし、中国政府筋では、病原菌は米国が持ち込んだ疑いが強いとしている。

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